物理の問題集を何周もしているのに,なぜか模試の点数が伸びない. そういう受験生は少なくありません. その原因の多くは,「基礎 → 定量的理解 → 演習」という順序が崩れていることにあります.本記事では,多くの受験生に見られる誤解を取り上げながら,基礎中心の物理の学習法を具体例とともに紹介します.
まずよく議論になるのが,勉強の「量」と「質」のどちらが重要かという話題です.物理に関して言えば,やはり質の高い学習(=基礎)が決定的に重要です.というのも物理は,基礎がしっかりしていれば安定して得点できる科目であり,一方で,基礎が曖昧な状態で問題演習を繰り返してしまうと,時間をかけても実力が伸びないという怖い側面を持っているからです.つまり,物理の学習においてはいかに基礎を身に付けていくかが最重要であるのですが,では,物理における「基礎」とは何でしょうか.その一例として,「仕事」の基礎について考えてみます.
生徒に基礎事項が身についているかの確認で,次のような質問をすることがあります.
「仕事の定義は何ですか?」
すると,意外にも正確に答えられる生徒は多くありません.高校物理では,仕事の定義に基づいた計算はたったの2パターンしかなく,
(物体が受けている)力が一定のときは,力ベクトルと変位ベクトルの内積をとる.
(物体が)一次元運動をしているときは,力を座標で積分する.
というのが仕事の定義通りの計算(定石)になっています.たったこれだけの内容ですが,この2つが頭に入っているかどうかで,その後の学習効率に大きな差が生まれます.定義通りの計算が頭に入っていれば,問題で仕事を問われた際には,まずその設定が「力が一定」か「一次元運動」であるのかを判別し,判別できたら先ほどの定義通りの計算に乗せればよいです.これを反復していけば,仕事の計算を習得することができるのは言うまでもありません.しかし,定義通りの計算が頭に入っていない場合には,仕事を聞かれた際にはその場の思いつきや過去に成功した計算法でこねくり回して答えを導こうとしてしまいます.もちろんそのようにして答えが合う場合もあるでしょうが,再現性のある解法とは言えません.もっとも,ここで問題になるのは,大抵の場合,定義通りの計算が頭に入っていないと,「仕事をエネルギー収支から逆算する」という手法を第一に置くことにあります.仕事は,定義通りの計算を徹底し,それが不可能な場合には,エネルギー収支から逆算する,というのが真っ当で基礎的な考え方で,仕事をエネルギー収支から逆算するのは理論的には難しい場合が多いです.
基礎を整理せずに問題演習だけ進めてしまうと,このような状況に陥りやすいです.
受験生を見ていると,基礎を侮って疎かにしている場合が少なくありません.
例えば,ばねの弾性力を一般の位置で表す場合,物体が座標軸上の正の位置にあることを仮定して記述するのが定石です.これは負の位置で考えても同じ式になり,場合分けは不要であることによりますが,それは一度自分で式を立てて確認することで,身にしみて理解できます.実際に負の位置に仮定して式を立ててみると,正の場合と結果を一致させるのは意外と難しいものです.ここら辺の話は疎かに考えてしまいがちですが,物理における座標軸の取り方やベクトル量の取り扱いの基礎が含まれており,最も重要な考え方の1つです.
物理の学習では,「問題集を何周もする」という勉強法が広く知られています.もちろん問題演習は重要ですが,それは基礎があって初めて意味をなすものであり,逆に基礎がなければ,問題集を何周も繰り返しても問題を解けるようにはなりません.なぜなら,問題集の解答には基礎となる体系的な考え方は書かれておらず,繰り返しても結局答えを表面的に覚えることになってしまうからです.物理では,体系的に理論を理解しないと安定して問題を解くことはできず,
基礎(理論)を理解する
その基礎を用いて演習する
という流れが非常に重要で,それは東大・京大をはじめとする実際の難関大学の入試でも同じで,そこで問われているのは徹底した基礎に他なりません.
物理の考え方には大きく分けて,
定量的な考え方(数式による議論)
定性的な考え方(イメージによる理解)
があります.高校物理で重要なのは前者で,いかなる場合にも定量的に式で計算することを徹底することが重要であり,これは共通テストをはじめ,大学入試の物理において大きなテーマとなっています.例えば,電磁気学の分野になると,「電場や電位がイメージできないから苦手」と感じる受験生も多いようですが,実際には,電場とか電位の定量的な計算に定性的なイメージはまったく必要がありませんし,そもそも定性的なイメージは,定量的な議論の反復によって形成されていくものなので,その順序を履き違えてはいけません.
高校物理の学習では,「公式の導出が重要」という話をよく耳にします.確かに,公式の導出を理解すること自体は大切で,実際,授業でも可能な限り導出の過程を説明するようにしています.ただし,それを目的化してしまったら元も子もありません.つまり,導出を白紙に再現できるようにすることは受験生にとってほとんど不要な能力であるということです.入試に導出が問われるものに関しては,白紙に再現できるに越したことはありませんが,それも実際の入試では状況説明や導出の流れは問題文で与えられるので,白紙に再現できるまで仕上げるのは過剰です.それにほとんどの公式の導出は,実際の入試では問われません.そこら辺を明確に意識して勉強しないと,導出することを目的化して,時間をかけてできるようにして,それにも関わらず試験で上手く得点できず自己満足に終わってしまいます.物理における証明は,一度だけ行えばよく,後はどんどん使っていくことが大切です.
高校物理の学習において重要なのは,
基礎を徹底すること
その基礎を用いて定量的に議論する習慣をつける
その上で問題演習を繰り返す
ということになります.
物理は,正しいやり方で学習すれば得点につながりやすい科目です.この記事が物理の学習法を見直すきっかけになれば幸いです.